マスターカードと婦人画報のガラディナー、クレジットカード会社とレストラン



クレジットカード会社とレストラン


クレジットカード会社がレストランに力を入れていることをご存知ですか。クレジットカードの会員に対して、予約を代行したり、特定のレストランで優待したりすることはよく知られているでしょう。こういったことではなく、もっと食に対して力を入れているということなのです。

ジェーシービーとアメリカン・エキスプレス・インターナショナルは、ぐるなびと共催し、2010年から1年に夏と冬の2回行われる「ジャパン・レストラン・ウィーク」を開催しています。全国350のレストランでランチが2000と3000円、ディナーが5000円と7000円で食べられます。「オテル・ドゥ・ミクニ」「モナリザ」「レストラン FEU」「アムール」「リストランテ・ヒロ」など協力しているレストランのグレードの高さを鑑みれば、だいぶ安い値段設定であると言えるでしょう。

アミューズブーシュ
アミューズブーシュ


ダイナースクラブは2010年から「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」を開催してランチが2215円、ディナーが5000円という値段で、全国500ものフレンチレストランで食べることができます。2013年からは「ダイナースクラブ イタリア レストランウィーク」も開催しており、ランチは2500円と5000円、ディナーは5000円と7500円となっています。
在日フランス大使館と提携し食を通して文化の発展を促そうとしているところは、食に対しての本気さが窺えるでしょう。さらには、一休.comやHotPepperと提携しており、ぐるなびへの対抗軸となっているところが面白いです。

また、パーク ハイアット 東京「ジランドール」、セルリアンタワー東急ホテル「かるめら」、パレスホテル東京「グランド キッチン」といったホテルのレストランも多く、「ベージュ アラン・デュカス東京」「レストラン リューズ」「ポール・ボキューズ」「ル・ブルギニオン」「レストラン アルシミスト」など星を獲得しているレストランも数多く協力しています。こういったところは、高級路線の一休.comが絡んでいることとも関係しています。

豪華なガラディナー


「蟹」徳岡邦夫氏
「蟹」徳岡邦夫氏


このようにレストランウィークを行っていることもあれば、特別なガラディナーを開催することもあります。中でもマスターカード(マスターカード・ワールドワイド)が2015年12月21日にアンダーズ東京で行った一夜限りのガラディナーはとてもユニークでした。
何故ならば、日本で最初の女性誌であり、1905年に発行されたハースト婦人画報社「婦人画報」とコラボレーションしたフェアであり、さらには、世界で最も多くミシュランガイドの星を持つジョエル・ロブション氏の右腕であった「SUGALABO」の須賀洋介氏など、日本を代表する料理人4人が集結し、たった一夜限りのディナーに精魂を注いだからです。

参加した料理人は以下の通りです。

* 須賀洋介氏
「SUGALABO」、世界で最も多く星を持つジョエル・ロブション氏の右腕
* 徳岡邦夫氏
「京都吉兆 嵐山本店」、ミシュラン3つ星料亭の総料理長
* 奥田政行氏
「アル・ケッチァーノ」、山形の美食イタリアン
* 坂本健氏
「チェンチ」、予約の取れない京都のリストランテ


レストランウィークは、ある一定の期間で、多くのレストランを巻き込んでいくものでした。それに比べるとこのガラディナーは、特定の1日に数名のスターシェフが1つのコースを作り上げるので、非常に密度が濃いものとなっています。

どういった理由や考えで行われることとなったのでしょうか。

マスターカードと婦人画報の共催


「鮑・百合根」坂本健氏
「鮑・百合根」坂本健氏


このガラディナーは、マスターカードが行っている「Priceless Japan」の文脈で中で行われました。「Priceless Japan」とは2011年に「Priceless New York」から開始した「誰もがワクワクできる」特別な体験や優待特典を提供する「Priceless Cities」の日本版です。トロント、ロンドン、北京、香港、シンガポールなど、対応する都市を増やしてきており、その過程で、インバウンドの旅行者数が記録を更新する日本が注目されたのです。

では何故、マスターカードはガラディナーを単独で行わず、婦人画報とコラボレーションして行ったのでしょうか。

これについては、まず婦人画報について考える必要があります。婦人画報はガラディナー「夢のレストランEPISODE 0 in TOKYO」を2015年8月21日に行いました。今年2015年で110周年となり、そのアニバーサリーイヤーを祝うガラディナーとして、「もしも、このようなレストランがあったら」という想いを実現したのです。須賀氏はこの時にも協力しており、のべ7人ものスターシェフが参加したこともあって成功を収めました。

ひとつの出版社がこれほど多くのスターシェフを集めてガラディナーを行うのは珍しいことですが、しかし、婦人画報がファッション、美容、健康、旅などの切り口からラグジュアリーなライフスタイルをより上質にするために尽くしてきたことを考えると、人生を上質にする上で欠かせない「食」を通してアニバーサリーイヤーを祝うことは納得のいくことだと感じます。

価値観を高める共催


「伊勢海老・大豆」奥田政行氏
「伊勢海老・大豆」奥田政行氏


そして話を戻すと、「かけがえのない日本の魅力を再発見する」ことをテーマとしている「Priceless Japan」を進めるマスターカードが110年もの間ラグジュアリーなライフスタイルをリードしてきた婦人画報に共感し、また編集長の出口由美氏が「Pricelessという考え方は素晴らしい」と述べたように、婦人画報もマスターカードの取り組みに共感していることから、互いを尊重した上で「夢のレストラン」を通して新たな価値を創造していくことになったのです。

マスターカードとしては、既に成功を収めている「夢のレストラン」に加わることは一からガラディナーを構成するよりは容易なことであり、婦人画報としても、マスターカードと共催することによって、新たなチャンネルを開拓することができたのはプラスになったことと思います。

今回のガラディナーがアンダーズ東京で行われたことも私には興味深いところです。「アンダーズ」=「Andaz」はヒンディ語で「パーソナルスタイル」を意味する言葉からも分かるように、アンダーズ東京は自分らしいスタイルで暮らすように過ごし楽しむことを重視したホテルであり、これは婦人画報が目指す上質なライフスタイルとよく合致しているからです。そして実際のところ、今回のガラディナーだけではなく、初回ガラディナー「夢のレストランEPISODE 0 in TOKYO」もアンダーズ東京で行われました。

4人のシェフによるコース


「牛・海老芋・九条ねぎ」坂本健氏
「牛・海老芋・九条ねぎ」坂本健氏


コースは以下の通りです。

* アミューズブーシュ
「京野菜」徳岡邦夫氏
「ベルシュウ」坂本健氏
「八幡平サーモン」奥田政行氏
「キャヴィア最中」須賀洋介氏

* 前菜
「鮪・甘鯛と鮟肝・穴子」徳岡邦夫氏
「すっぽん・白菜」奥田政行氏
「蟹」徳岡邦夫氏
「鮑・百合根」坂本健氏
「冬温菜・トリュフ」須賀洋介氏

* 魚料理
「伊勢海老・大豆」奥田政行氏

* 肉料理
「牛・海老芋・九条ねぎ」坂本健氏

* デザート
「ピュツシュ・ド・ノエル」須賀洋介氏

* ミニャルディーズ
* コーヒー・紅茶


面白いのは4人ともアミューズブーシュと前菜を提供しているところです。フランス料理と日本料理、イタリア料理のアミューズブーシュと前菜を食べ比べられる機会はなかなかありません。アミューズブーシュは一皿に盛り付けられていましたが、前菜は個々に提供され、日本料理を知悉する徳岡氏だけ前菜を2品提供しました。地産地消の先駆けである奥田氏が魚料理を、京都の食材にこだわる坂本氏が肉料理を、全体をまとめあげた須賀氏がデザートを作りました。こういったコラボレーションの場合、2人であれば交互に、それ以上であれば各1皿ずつ提供することが一般的であるだけに、このガラディナーはサービス精神に溢れており、かつ、メリハリもついたコースになっていたと言えるでしょう。

共にレストランを盛り上げていく


「ピュツシュ・ド・ノエル」須賀洋介氏
「ピュツシュ・ド・ノエル」須賀洋介氏


クレジットカード会社が主導して、大きなレストランウィークを展開したり、豪奢なガラディナーを開催したりしていますが、では、どうしてクレジットカード会社がレストランに力を入れるのでしょうか。それは、クレジットカードの発祥であるダイナースクラブの創始者フランク・マクナマラ氏のこんなエピソードから読み解くことができます。

クレジットカードの発想はレストランのテーブルから生まれたダイナースクラブは、第2次世界大戦が終わってまだ日も浅い1950年(昭和25年)、アメリカで実業家マクナマラと友人の弁護士シュナイダーによって設立されました。
きっかけは、ニューヨークのレストランでのこと。
食事を終えたマクナマラは財布を忘れてきたことに気づき、あわてて郊外の自宅に電話、夫人に現金を届けてもらいました。なんとか支払いは済ませたものの財布の到着を待っているのはかなり気まずいものでした。そこで彼は友人のシュナイダーに相談し、二人で1万ドルずつ出し合い、ツケで食事ができるクラブをつくることにしました。
クラブの名前は食事をする人という意味の「ダイナース」。ここに初めて、カードさえあれば、自分の顔を知らない店でも食事ができるクラブができたのです。


クレジットカードは今でこそ、インターネットのオンラインショッピングでも頻繁に使われていますが、もともとはレストランなどの外食や買い物での利便性をよくするために考え出されたものであり、そのため、クレジットカードとレストランのつながりは深いのではないでしょうか。これは実話ではないという指摘もありますが、例えそうであったとしても、こういったエピソードを創作したということ自体が、クレジットカードがレストランと重要な結び付きがあることの証左となっています。

客がクレジットカードで支払いをする際に、レストランはクレジットカード会社に手数料を支払うことになりますが、両者の関係が単に決済を介しただけの薄いものではなく、レストランウィークやガラディナーのように密に関係し合い、レストランを共に盛り上げていく関係であり続けることを願っています。