その時ミシュランレストランは客を差別したのか?



レストランにおける差別


放送作家の安達元一氏が<差別?ポリシー?>なぜ「ミシュラン星付レストレン」は女装者の客を「他の客に見えない場所」に座らせたのか?という記事を書きましたが、これに対して賛否両論があり、多くのコメントも付いて注目されています。

記事の概要は以下の通りです。

安達氏がミシュランガイドで星を獲得しているフランス料理店にトランスベスタイト(異性装者)の友人と一緒に訪れたら、テーブルを移動させられたり、席を指定されたりと、屈辱的な扱いを受けた。後で書面で抗議すると、他の客に迷惑だからと返答され、意識の低さに怒りを通り越して悲しさを覚えた。


こういった客への差別は、「今日もどこかでノーショーは繰り返される」でも取り上げたノーショーの問題と同じく、レストランにおいて非常に難しく、重要な問題です。

以下、差別に絞り、この事件を考えてみることにします。

ちなみに、ミシュランガイドで星を獲得しているレストランのサービスについては触れません。というのも、これを考慮すると、ミシュランガイドで星を獲得しているレストランでは、かくかくしかじかのホスピタリティが必要だという議論になり、本質がずれてくるからです。

また、ジェンダーについても踏み込むことはしません。これは1つの学問になるくらい深く広い分野であり、議論の質が違ってくるからです。

怒りのポイント


安達氏が怒ったポイントを、できるだけ本文に近いまま挙げると、以下の通りになるでしょう。

* 1. 「店のはじっこの席」に行くように促され、中央に背中を向けて座るようにと言われた
=> 中央テーブルで、好きな席に座りたかった
* 2. 書面で抗議すると「他のお客さんが気になって、本来食事中にする会話が出来なくなる」と回答された
=> ミシュランガイドで星を獲得しているにしては意識が低い
* 3. 「うちはトランスベスタイトはお断りです」と方針を明示していなかった
=> 明示していたら行かなかった


1について


ミシュランガイドで星を獲得しているようなレストランの場合、予約している客のテーブルはまず決まっています。

というのも、そもそもきちんと計算してテーブルを決めなければ、予約している客が全員入らないからです。また、客の名前を入れたウェルカムメッセージを置いたり、顧客情報を重要視する昨今においてどの席に座ったかを記録したりすることもあるので、テーブルが決められていることは、なおのことです。

従って、中央のテーブルに着こうとして咎められたのは、ある程度仕方ないことであり、この段階で差別があったと考えるのは早計かも知れません。

予約していなかった場合を考えてみましょう。この場合でも、客が自由にどこでもテーブルを選べることはあまりないでしょう。というのも、何人の客がいつどのテーブルに着くかを考慮して、突然入店してきた客がどのテーブルに着くのが相応しいかを決める必要があるからです。

上記から、予約の有無に関わらず、客がテーブルを選べないことは仕方ないことです。どうしても着きたいテーブルがあれば、予約する時に事前に伝えるしかありません。

ただ、テーブルに関してはそうであっても、そのテーブル内でどの席に着くかをレストランに指定されたとなると、事情が異なります。通常、テーブル内でどの客がどの席に座るかは自由だからです。またテーブル内であれば、テーブルセッティングされていない席に移ることは可能です。レストランが席を案内するにしても、普通は中央が見えるようにします。

従って、背を向けるように席を指定されたとなると、安達氏が差別と受け取るのも仕方ありません。

2について


ここで注意していただきたいのは、これを「当人にとっては普通」という議論にしてしまうと、単にレストランの問題ではなくなり、ジェンダーの議論になってしまうので、危険な気がしてしまいます。

また、ドレスコードの問題にして「トランスベスタイトなのだから自然」と言い切ってしまうとよくありません。というのも、レストランのドレスコードは「男性はかくあるべき」「女性はかくあるべき」といった服装規定になっているので、トランスベスタイトは男性である以上、ドレスコードは違反しているとされても仕方ないからです。

そのため、他の客が気になってしまう状態にあるかどうかに限定して議論する必要があります。

そうした観点で考えると、「フードポルノにまつわる議論よ、再び」でも述べたように、何を不快に思うかは非常に難しいところですが、同性婚も認められていないような日本においては、トランスベスタイトが一般的に了解されているものと見做すことはあまり現実的ではありません。

事前にトランスベスタイトであると告げていなかったにも関わらず、支配人やサービススタッフが友人をトランスベスタイトだと分かったのですから、他の客も同じように分かったはずです。

不快とまではいかないにしても、不思議に思ったり引っかかりを覚えたりして、食事や会話に集中できなくなる客も少なくないと思います。

従って、文面がどうであったかは別にして、レストランがこのように回答するのも無理はないでしょう。

3について


安達氏の気持ちは非常に分かりますが、これも難しい問題です。何故なら、入店を断る要素を全て記載することは現実的に不可能だからです。安達氏は、完全なブラックリストの提示を求めており、これは第三者からすると言いがかりに聞こえてしまいます。

例えば、ペットを連れて入店できるミシュランガイドの星付きフランス料理店は皆無ですが、これをブラックリストにするとなると、「犬は入店お断り」だけでは不足しており、「猫は入店お断り」「蛇は入店お断り」「トカゲは入店お断り」など、全ての動物を記載しなければならなくなります。

そんな例を挙げていないで「人間以外お断り」にすればよいと思われるかも知れませんが、ほとんどのレストランで「人間以外お断り」が記載されているのは、とても間抜けなような気がします。

安達氏が他の例として挙げられている障がい者の方に関しても同様であり、対応が難しいので断るにしても、どういった障がい者の方は対応が難しいかを事前に全て記載することは不可能に近いでしょう。

このように完全にブラックリストにすることは不可能ですが、頻出するものであれば明示しているフランス料理店は多く、これがドレスコードであったり、「中学生以上で通常コースをお召し上がりになれる方」といった年齢条件であったりするのです。

非常に少数派であるトランスベスタイトに関して、事前に入店お断りと記載するのは、少し非現実的であるような気がしてしまいます。

ただ、安達氏も書かれているように、そうであれば入店させないという対応もありますが、ここでの本質は、客が事前に、どういった客はお断りであるかを知るかということなので、あまり問題は変わらないかと思います。

相互理解を得るまで


みなさんはどうしてレストランへ行くのでしょう。
それはやはり、同席している人(私は1人の時が多いですが)と一緒に料理やお酒や空間や雰囲気を楽しみたいからなのではないでしょうか。

安達氏は以下のように結んでいます。

トランスベスタイトの彼女はめいっぱいのオシャレをして、美しく上品に着飾っていたのです。彼女が安心して食事が出来る社会にするべきではないでしょうか。多様さの相互理解が問われているように思われます。


多様さの相互理解は必要ですが、先に挙げたノーショー問題と同じように、レストランと客が対立して自分の主張ばかりしてしまうと、相互理解を得ることが難しくなってしまうので、まずは互いに一歩でも踏み寄ることが重要でしょう。

ただ、安達氏が書かれた「彼女が安心して食事が出来る社会」になるまでには、まだ時間がかかるので、それまでの間は、まず安心して食事できるレストランであるかどうかを事前に確認することから始めるのがよいと思う次第です。