世界最高峰パティシエ徳永純司氏が移籍、その裏側を読み解く



スイーツ界のニュース


ここ最近のスイーツ界の大きなニュースを挙げろと言われたら、私は真っ先にこちらを挙げます。

それは、徳永純司氏がザ・リッツ・カールトン東京からホテル インターコンチネンタル 東京ベイに移り、4月16日にエグゼクティブ シェフ パティシエに就任したことです。早くも5月末からは、ブティックのスイーツは全て徳永氏が創作したものに刷新され、メディア向けの発表会も大々的にとり行われました。

徳永氏の移籍を通して、私は以下3つの点に注目したいです。

* 旬のパティシエ
* 才能溢れる料理人の集結
* ヴァンドゥーズ


旬のパティシエ


左から徳永氏、成ヶ澤氏、岸氏
左から徳永氏、成ヶ澤氏、岸氏


徳永氏は今最も旬と言ってもよいパティシエのうちの一人です。2015年にTBS「情熱大陸」で日本屈指のパティシエとして紹介されてからは、著しい注目を浴びるようになりました。

主な受賞を挙げるだけでも、以下のように輝かしいものとなっています。パティシエにとって世界最高の舞台であるクープ・デュ・モンドにおいてもしっかりと結果を残しているのです。

* 2006年 3つの熟成ヨーロッパコンテスト 優勝
* 2007年 はちみつコンクール 優勝
* 2007年 ワイルドブルーベリーコンテスト 優勝
* 2010年 ルクサルドグランプレミオ 優勝
* 2010年 ぐるなびベストオブメニュー2010 優勝
* 2014年 クープ・デュ・モンド世界大会 準優勝 チョコレートピエス部門1位


これだけ輝かしい経歴を持つパティシエが、日本でも高いブランド価値を誇るザ・リッツ・カールトン東京を辞めるということは、それだけでも驚くべきことです。では、なぜ徳永氏のように世界規模で活躍するパティシエが移籍することになったのでしょうか。

才能溢れる料理人の集結


まず、ここ最近のホテル インターコンチネンタル 東京ベイに移った料理人について紹介したいと思います。

以下の田口氏と阿部氏は共に、他の一流ホテルから輝かしい実績を携えてホテル インターコンチネンタル 東京ベイに移ってきた料理人です。2人とも一流ホテルのレストランで研鑽を積んできており、その経歴は輝かしいものでしょう。

鉄板焼「匠」料理長 田口仁氏
田口氏の鉄板焼「匠」
田口氏の鉄板焼「匠」

* 2004年 ウェスティンホテル東京へ入社。鉄板焼「恵比寿」で、ミシュラン一つ星を獲得した年にスーシェフとなり、約8年間経験を積む。
* 2013年 ホテル インターコンチネンタル 東京ベイにオープンした鉄板焼「匠」料理長に就任。


イタリアンダイニング ジリオン料理長 阿部洋平氏
阿部氏のイタリアンダイニング「ジリオン」
阿部氏のイタリアンダイニング「ジリオン」

* 2009年 シャングリ・ラ・ホテル東京のイタリアンレストラン ピャチェーレでパオロ・ぺロシ氏より新イタリア料理を学び経験を積む。
* 2013年 ホテル インターコンチネンタル 東京ベイにオープンしたイタリアンダイニング「ジリオン」料理長に就任。


さらには、他の料理人や菓子職人の経歴は以下の通りです。

シェフズ ライブ キッチン 料理長 佃勇氏
* 2003年 「エイジアンテーブル」「サンセットラウンジ」「C4U」料理長に就任。
* 2006年 「エイジアンテーブル」および オールデイダイニング「ブルーベランダ」の料理長に就任。
* 2012年 「シェフズ ライブ キッチン」料理長兼店長に就任。


ラ・プロヴァンス 料理長 今関一久氏
* 2004年 帰国後、ル・パピヨン ド パリ料理長に就任。
* 2009年 アークヒルズクラブ コンチネンタルキッチン副料理長を勤める。
* 2012年 ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ 入社。ファインダイニング ラ・プロヴァンス副料理長に就任。
* 2014年 ファインダイニング ラ・プロヴァンス料理長に就任。


レインボーブリッジビューダイニング&シャンパンバー マンハッタン料理長 吉本憲司氏
* 2008年 第4回エスコフィエ・フランス料理コンクール(※)にて国内最年少で優勝。 ※エスコフィエ料理コンクールは料理の技術や芸術性を競うコンクール
* 2014年 レインボーブリッジビューダイニング&シャンパンバー マンハッタンの料理長に就任。


成ヶ澤正美氏
* 2005年 ホテル インターコンチネンタル 東京ベイに入社。
* 2008年 エグゼクティブシェフパティシエに就任。


佃氏はテレビ番組にもよく出演している料理人で、今関氏や成ヶ澤氏はホテル インターコンチネンタル 東京ベイを支えてきた人物であり、吉本氏は最年少でエスコフィエ・フランス料理コンクールで優勝した若手の注目料理人です。

これだけの料理人や菓子職人がいましたが、鉄板焼「匠」やイタリアンダイニング ジリオンをオープンするにあたり、どちらとも新しいレストランなので、新たな料理人を連れてくる必要がありました。そこで、田口氏や阿部氏のような旬の料理人が移籍してきたのです。

では、どうして2人は移籍してきたのでしょうか。

それはひとえに、総料理長 岸義明氏のおかげであると私は考えます。岸氏はフランス調理師会から「メートル・キュイジニエ・ド・フランス」の称号を与えられ、平成24年度 調理師関係功労者 厚生労働大臣表彰を受賞した料理界の大御所の一人です。輝かしい実績と幅広い人脈を持っていることに加えて、親しみ易い人柄と面倒見のよい性格から、数多くの実力ある若手料理人とも親睦の深い人物なのです。

調理師関係功労者 厚生労働大臣賞は、調理師制度発展向上、調理師養成に多大な貢献、調理技術の発展と調理技術の発展と調理師の資質向上に尽力された方に贈られます。


徳永氏のフルーツトマトのコンポート
徳永氏のフルーツトマトのコンポート


ホテルというのは他の業種と比べると離職率の高い業種であり、大卒入社3年後の離職率は50%を超えます。ホテルは専門職の集団であるだけに実力がものをいう世界であり、転職することによって役職や給与が上がっていくのです。そのため、能力のある料理人や菓子職人は、自身の能力が発揮でき、それを評価してもらえる場所へと移っていくのです。こういった背景のもと、岸氏は田口氏や阿部氏を獲得していきました。

ただ、実際のところ、徳永氏の場合には少し事情が違っていました。徳永氏はザ・リッツ・カールトン東京にいた時に最高峰を極めていただけに、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイへ移籍したことによって特に待遇がよくなることはなかったのです。しかし、守口プリンスホテルで働いていたという共通点がある岸氏の「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイのスイーツを新しく一緒に作っていこう」という熱意によって心を動かされ、移籍することにしたのです。

ヴァンドゥーズ


徳永氏のシュー・ア・ラ・クレーム
徳永氏のシュー・ア・ラ・クレーム


徳永氏の移籍において、注目したい最後のポイントはヴァンドゥーズです。

Vendeuse【ヴァンドゥーズ】とは、フランス語のVendre【ヴァンドレ】(売る・販売する)という意味の言葉が元になっており、お菓子を専門に販売をする女性の専門職です。男性はVendeur【ヴァンドゥール】といいます。
ヴァンドゥーズはただのお菓子の "売り子・販売員” ではありません。高度で幅広い知識と専門の技能を持ち、おもてなしの心を基にお客さまに喜んでいただくことを何よりも大切に考え、お菓子をお客さまにお届けするプロフェッショナルのことをいいます。


ヴァンドゥーズとは、作り手と客とをつなげるとても重要な仕事を担っています。いくら一流の作り手がいたとしても、それを客に上手に的確に橋渡しする人物がいなければ、物語は始まりません。

徳永氏が移籍するにあたり、岸氏は徳永氏が「生み出していく素晴らしい洋菓子のことを、しっかりと伝えられる人物が絶対に必要」と考え、ヴァンドゥーズの役割を重視しました。そして、徳永氏と同じくザ・リッツ・カールトン東京から、評判の高いヴァンドゥーズ鈴木映氏もホテル インターコンチネンタル 東京ベイに移り、「ニューヨークラウンジ ブティック」マネージャーに就任することになったのです。

徳永氏という才能を迎えるにあたって、万全を期したと言ってもよいでしょう。

シェフ パティシエのツートップ体制


徳永氏のケーキが並べられたショーケース
徳永氏のケーキが並べられたショーケース


ホテル インターコンチネンタル 東京ベイは売上が5年で1.8倍に伸びており、2020年の五輪需要の恩恵を受けるホテルの中でも、極めて好調のホテルです。そのためもあって、特に洋菓子部門は重責が増えており、成ヶ澤氏の負担が大きくなっていました。

そこで徳永氏を迎え、成ヶ澤氏はバンケットとブライダルを、徳永氏はブティックとレストランを担当することになり、2人のシェフ パティシエが生まれるに至るのですが、いかに規模が大きなホテルにおいてさえも、洋食総料理長と中国料理料理長であれば2人の総料理長がいることは珍しくないものの、シェフ パティシエが2人いるのは珍しいことです。

「ケーキは1個だけではなく2個、3個とたくさん召し上がっていただきたい。そのため、食べ易いように軽く仕上げている」と語る徳永氏のケーキが、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイで今後どのように進化していくのか、私にも想像がつきませんが、少なくとも分かっているのは、今最も注目されているパティシエが今最も勢いのあるホテルに移り、その溢れんばかりの才能によって何かを成し遂げようとしているということだけなのです。